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【第6章】全国的な天然ガス転換(第3回)

4.天然ガス転換に伴う旧型ガス機器の保安向上

 

ガス事故件数の減少にも寄与した天然ガス転換の目的は、急増する都市ガス需要への供給設備の対応と、原料の確保、大気汚染対策などが主なものでした。しかし、天然ガス転換による、ガス事故防止対策上、大きく寄与したものがあります。前述の通り、その理由は主に二つあります。

 

一つ目は、都市ガスは、その中にCOを含まないので、都市ガスの漏れによる生ガスCO中毒がなくなったことです。

 

二つ目は、天然ガス転換のために、事前に家庭内ガス機器の設置状況などを全て調査し、作業当日には、全てのガス機器を天然ガスで使えるように調整するとともに、給排気設備も改善して、ガス機器が完全燃焼し、絶対にCOを室内にださない仕組みにして作業を終えるからです。

 

以下に、その状況について、検証してみます。

 

まず、一つ目の、都市ガス中のCOによる中毒事故の死亡者数ですが、昭和50年代前半までは、毎年20~30名でしたが、大手都市ガス事業者の天然ガス転換が進んだ、昭和50年代後半には、その死亡者数は一桁となり、大手都市ガス事業者の天然ガス転換がほぼ終了した、平成時代にはいってからはほぼゼロとなりました。

 

二つ目の、天然ガス転換作業の際、ガス機器及び給排気設備の点検整備により、ガス不完全燃焼によるCO中毒事故による死亡者数は、天然ガス転換がほぼ終了した平成7(1995)年以降は、ほぼ一桁台に減ってきています。ガス事故による死亡者数の減少の一因として、この天然ガス転換作業も寄与していたのです。

 

5.全国的な天然ガス転換計画(IGF21計画)

① IGF21計画とは

東京ガスに続き、大阪ガスの天然ガス転換が終わった、平成2(1990)年に、当時の通商産業省は、都市ガス需要家、ガス機器メーカー、都市ガス事業者の立場から、低カロリーグループの将来動向を見すえて、ガスグループの高カロリーへの統一が必要であると考えていました。

 

その具体策として、通商産業省は「Integrated Gas Family 21計画」について、ガスグループの有り方の課題と検討の方向を提案しました。

 

この背景には、大手都市ガス事業者の高カロリーガス化により、低カロリーガスの需要家数がすくなくなるため、低カロリーガスグループのガス機器の開発、製造、流通、アフターケアなどが悪くなることが考えられたのです。結果として、低カロリーガス用の機器の価格も割高になってくるので、低カロリーガスグループと、高カロリーグループとの間に、地域格差が生じ、不公平感が増すのではないかと考えたのです。

 

この、「IGF21計画」の提案を受け、都市ガス事業者は、日本ガス協会に「IGF21計画研究会」を設け、検討し、平成3(1991)年には、「需要家の立場に立った、都市ガス業界の健全な発展」のために、高カロリーガスに統一する「IGF21計画」を業界の目標にしたのです。COを含まない都市ガスの高カロリー化については、平成6(1994)年、通産大臣の諮問機関である、総合エネルギー調査会都市熱エネルギー部会が、都市ガスの安全高度化の面から次の提言をしています。

 

提言は「高カロリーガス種への集約化の推進」については、熱量変更作業の人員面、費用面での困難性を伴うが、すべての一般ガス事業者が平成22(2010)年ごろまでに高カロリーガス種への移行を完了するよう、今後、業界を挙げて取り組むべきであるという趣旨になっています。

 

この様に、低カロリーガスの需要家数の割合が減る問題を解決するために考えられたのが、「IGF21計画」でした。環境にやさしくCOがないという天然ガスは、地球温暖化防止対策や安全性の向上といった面からも必要性が高まっていました。

 

②「IGF21計画」の具体的な実施

平成6(1994)年の低カロリーガスグループは、都市ガス全需要家数約2300万件の約22%となる約510万件が、11グループの低カロリーガス種に分かれていました。そこで、IGF計画の第一ステップとして、11グループのガス種を、平成6(1994)年度末に5グループにまとめる。

 

第二ステップとして、平成22(2010)年ごろまでに、この低カロリーガス5グループの全ての需要家を高カロリーガス化するという計画を立てたのです。ここでの低カロリーガスから高カロリーガスへの熱量変更作業の最大の課題は、「熱量変更作業要員の確保」でした。

 

熱量変更作業は、需要家を数百件単位でブロック化し、そのブロックごとに2~3日間かけて、全てのガス機器を調整し、ガスを切り替え、安全を確認します。

 

そのため、約200~300人程度の器具調整作業者が必要となります。中小の都市ガス事業者が、一時的に多くの作業者を用意することは、大変難しいので、「熱量変更共同化」を採用することになりました。

 

これは、熱量変更をする事業者が、共同で作業者を出し合う方式です。例えば、20の事業者が10名ずつ出し合えば、200名になります。作業が終わって解散しても、出した人が帰ってくるだけで、大きな人員増にはならないのです。

 

この熱量変更共同方式を全国10地区で実施することにより、スムーズな変更作業ができ、予定通り、平成22(2010)年には「IGF21計画」は完了したのです。

 

 

6.天然ガス転換による新規ガス機器の品質向上

 

昭和47(1972)年から、東京ガスが始めた天然ガス転換作業は、大阪ガス、東邦ガスと続いて、平成5(1993)年には、これらの大手都市ガス事業者の天然ガス転換作業はすべて終わりました。

 

その後、前述の「IGF21計画」が実施され、平成22(2010)年に「IGF21計画」も終了しました。これで、初めて日本中の都市ガス事業者のガスが、天然ガス13A(一部LPGエアー13A)に統一されたのです。

 

これまでは、特に昭和30年代からの高度成長時代に急増する都市ガス需要に対して、ガス機器メーカーは、13種類のガス種にあったガス機器をださなければならなかったので仕様を一つ一つ決めて作っていました。つまり、各ガス機器メーカーは、一つの形式のガス機器に対して、13種類のガス種に対応できる機器の、 いわゆる少量多品種生産を余儀なくされていたのです。

 

全国の都市ガス事業者のガス種が13Aに統一されたことで、ガス機器メーカーは、形式別に、一種類の仕様で全国の都市ガス使用者向けに生産すればよい、ということになりました。

 

その結果、ガス機器メーカーは、チャレンジな、新しい機能デザイン、フェイルセーフな安全機能などを持った新製品を開発できるようになりました。全国的な天然ガス転換は、近代的なガス機器システムなどの登場につながり、今後の更なる発展に寄与するという極めて大きなプロジェクトであったと言えるのです。

 

 

 

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