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【第6章】全国的な天然ガス転換(第2回)

3.天然ガス転換の必要性

①原料調達と公害対策としてのLNG導入

 

都市ガス事業者の使命は、全ての需要家に対して、24時間365日都市ガスを安定して供給し続けることです。それにはまず、都市ガスの原料を長期にわたって十分確保し、それを製造工場で都市ガスにしてガス導管で全需要家に送らなければなりません。

 

 

戦後の復興から高度成長期へと変遷が始まる昭和30(1955)年代になり、京浜地区では都市ガス需要家数は、毎年十数%、約40万件増えていました。

 

特に東京、大阪などの大都市圏では需要の伸びが目立ち、都市ガス原料の確保は、最も大きな課題になっていました。

 

そんな時、アメリカのLNG輸出を取り扱っているいくつかの会社から、東京ガスに対してLNGを輸入しないかとの打診がありました。東京ガスでは、これを契機としてLNG導入の検討を始めたのです。

 

 

もともと都市ガスの原料は、長い間石炭でした。しかし、戦後、石炭採掘労働者のストライキなど、いろいろな問題が起きるなどして、都市ガス原料確保に苦労していて、当時は比較的安かった石油系も補助的な都市ガス原料として使っていました。

 

 

一方、昭和30(1955)年代は、人々が集中した大都市圏、その近くの工業地帯では、石炭、石油の燃焼、車の排気ガス等の窒素酸化物、硫黄酸化物等による大気汚染が発生し、大きな社会問題となってきていました。

 

LNGはそのような公害物質は含まない、クリーンな原料でしたので、利用価値が大いにありました。

 

この様な背景から、価格は、石炭や石油より高いが、長期的な供給が確保されること、クリーンであることなどにより、東京ガスなどの大手都市ガス事業者は、LNG導入を決めたのです。

 

 

②全国13種類のガス種の統合化

 

大手都市ガス事業者の天然ガス転換事業は、東京ガスが昭和47(1972)年、大阪ガスが昭和50(1975)年、東邦ガスが昭和53(1978)年と各事業者で導入が開始され、これらの都市ガス事業者が使用するガス種は13Aという種類に統一されていきました。

 

しかし、当時、全国レベルでは、250社以上あった都市ガス事業者が供給するガスに使用する原料は、石炭ガス系、石油系ガス、ナフサ、オフガス、LPGなど13種類ものガス種に分かれて供給されていました。

 

ガス種とは、熱量と燃焼速度で区別された都市ガスの種類のことで、別表に記載のごとく、天然ガス転換前までは13種類もあったのです。

 

   

ガスコンロ一つを作るにしても、ガスの種別に合わせて13種類の製品を作らなくてはならず、13A以外のガス種の機器は、多品種少量生産だったのです。一方、需要家側も、全国に約250社以上の都市ガス事業者があるので、転勤などで住まいを変えると、ガス機器の調整や買い替えが必要となり、かなり不便な一面がありました。

 

そのような状況でしたので、全国の都市ガス事業者が、一種類の13Aガスに統一することは、ガス機器メーカーにとって生産効率の面から、また、使用者側から見ても大きなメリットが期待されたのです。

 

 

③導管輸送量の拡大・効率化

都市ガス原料の確保だけではなく、工場から需要家に届ける都市ガスのガス導管の輸送量を増やすことは、絶対に避けられないものでした。よく、停電はあるが、「停ガス」はないといわれます。需要家が増えて、今までのガス導管では必要な量のガスが届けられなくなると、使用中のガス機器の炎が消えてしまいます。その使用者が、それに気が付かないとガスが通った時に、炎が消えたまま都市ガスが出しっぱなしになります。これは重大事故になるので、絶対に「停ガス」は起こしてはいけないのです。

 

ガス導管は、地中に埋められているので、導管輸送量増やすためには、その都度道路を掘り起こし、大口径の導管に切り替えなければいけません。戦後の復興と高度成長時代の大都市圏では、道路の舗装がどんどん進み、一度舗装すると、ガス導管のために道路を掘削する場合、いろいろな障害が発生します。

 

しかし、おなじ口径の導管内に熱量の高いガスを流せば、供給量が増えたのと同じことになります。

 

 

低カロリーガスから高カロリーガスへの転換は、需要家数が増えても、今までの導管をそのまま使えるというメリットがありました。

 

 

昭和30(1955)年代の大都市圏では、人口が増えたので、郊外に団地群、住宅群が林立するようになりました。大手都市ガス事業者では、港湾に作られたLNGの受け入れ工場から、郊外の住宅に都市ガスを効率よく供給するために、郊外をつなぐ高圧・中圧の輸送導管のネットワークの環状パイプラインを作りました。

 

東京ガスの場合、東京~千葉間を結ぶ東京湾の海底幹線を日本で初めて施工しました。この導管網の整備によって、都心も郊外も含め、都市ガスが効率よく供給できるようになったのです。

 

 

全国の都市ガス事業者の天然ガス転換によるメリットは、中小都市ガス事業者にとっても同じく有効でした。大手都市ガス事業者が、港湾にLNG受け入れ工場を造り、LNGから作った天然ガス供給のための幹線パイプラインを敷設すると、その幹線に近い中小都市ガス事業者は、その天然ガスを使うことができるので、天然ガス転換もしやすくなります。その結果として、中小ガス事業者の原料、導管などの問題点も、一気に解決されるというメリットがあったのです。

 

 

 

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