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【第5章】ガス機器事故再発防止対策(第6回)(昭和50(1975)年~)

3. 将来に向けたガス機器の安全化

 

 

現在の都市ガス事業者は、家庭用ガス機器全般について、すべてにフェイルセーフの設計思想を導入しています。

 

基本的には、ガスの利用者が安全を守ることが前提ですが、使い方にミスがあっても、事故が起きないよう、安全装置をつけるなど、都市ガス事業者は一歩踏み込んだ対策を行ってきました。

これは、ガスの利用者に、安全を周知するというソフト面だけでは、事故が減らないので、ガス機器のハード面の対応(フェイルセーフ)を大原則にしたのです。

 

このため、使用上のミスや老朽化による不完全燃焼などの不具合があっても、自動停止するような安全装置を標準仕様にしました。前述の通り、昭和初期から30年代までは、ガス機器は安くないと売れないという考え方が支配的だったので、安全装置はあまりついていませんでした。

 

しかし、ガス機器が普及し、利用者増に伴い、使い方のミスによる事故が多くなり、安全装置が必要になってきたのです。そこで、安全対策は当然のこととして、機器の使いやすさや便利さなどの付加価値を加え、総合的に便利な商品を販売戦略として、普及させるという方法に切り替えたのです。

 

ガス機器は、ガス機器メーカーが主役ですが、事故多発時代には大手都市ガス事業者が安全な設計仕様を提案してきました。

建設事業者に対し、新設の建物の設備設計時点で、ガス設備・ガス機器が導入しやすいプランの提案や実行段階での施工管理でのフォローなどの周知・PRなど実行してきました。

 

ガス機器の開発に関しては、安全性や商品価値のコンセプト(概念)について、都市ガス事業者がガス機器メーカーとともに設計・製造・販売面の活動を進めるなど、新製品の普及を広げる仕組みを作ったのでした。都市ガス業界として、関係業界の支援をえながら、安全な機器の普及拡大を積極的に進めてきたのです。

なお、抜本的な「ハード対策」に伴うガス機器の安全化については、大部分、ガス事業法の改正により「ガス用品の技術基準」の規制対象に追加されております。

 

 

(1)ガス機器の安全性に関する基本仕様と具体的な安全装置

 

各ガス機器とも、「フェイルセーフ設計思想」による安全装置付きと同時に、操作性、利便性など付加し、商品価値を上げるよう配慮されています。

 

①ガス機器の点火時の確認システム
初期点火時は着火か不着火の確認を必須とし、不着火の場合、停止し、音声またはランプで表示します。これは全機器共通となっています。点火の電源は、乾電池または交流電源です。

 

②風呂釜・大型湯沸器などガス消費量の大きな機器は原則として、外気での給排気処理方式とし、屋外設置方式とします。屋内に設置する機器の場合は、自然(給)排気方式、強制(給)排気方式となりますが、設置基準に基づき設置し、機器には不完全燃焼防止装置を装着することとします。

 

③火災防止対策として、各機器とも、その使用条件に基づき、所定温度以上になった場合、過熱防止装置で自動的にガスを遮断するシステムとなっています。

 

④室内で使用するガス機器については、使用用途に応じた安全装置を装着しますが、特に小型湯沸器、開放型ストーブには不完全燃焼防止装置は必須となっています。

 

⑤各ガス機器とも、安全性とともに、操作性、適温管理など使用者が快適に使えるなど利便性など環境面も整備されています。

 

 

(2)各種ガス機器の安全化の変遷の具体的な事例

 

①風呂釜と大型湯沸器の変遷

 

給湯型ガス機器の開発進化に伴い、安全化とともに使用目的・設置性や利便性など考慮した結果として、風呂釜機能と湯沸機能が一体化し、その後全自動風呂釜となりました。

さらに発展形として、温水暖房用の湯沸機能が追加され、付加価値が増した総合的な大型給湯器が実現したのです。

 

下記に代表的な安全装置を記します。

 

[風呂釜と大型湯沸器の安全装置]

 

  • ・機器は屋外設置を主とする
  • ・自動点火安全装置付き
  • ・給湯は湯沸器機能付き
  • ・湯温度設定は風呂釜追い炊き機能で調整
  • ・過熱防止機能付き
  • ・空焚き防止機能付き

(温水機器や風呂釜に水がない場合、ガス停止と警報鳴動)

 

②小型湯沸器の変遷

 

昭和50年代後半から、安全装置が装着されてきました。特に、CO中毒事故の原因となる不完全燃焼を防止する装置は重要な機能であり、効果は発揮されています。

 

[小型湯湯沸器の安全装置]

 

  • ・自動点火安全装置付き
  • ・不完全燃焼防止装置(略称不燃防)付き
  • ・過熱防止装置付き

(機器の温度が以上に高温になった場合、ガスを停止する)

  • ・給湯温度調整機能付き

 

③暖房機器の変遷

 

室内で使用する個別開放型ストーブは、昭和50年代後半から不完全燃焼防止付きとなりました。現在は、ファンヒーターが主流です。その後、室内の空気を使用しないセントラルヒーテイング方式が開発され、温水暖房による床暖房などが普及しています。

さらに暖冷房用エアコンとしてガスヒートポンプ(GHP)が開発され、普及中です。

 

[暖房機器の安全装置]

 

  • ・自動点火安全装置付き
  • ・不完全燃焼防止装置(略称不燃防)付き
  • ・自動温度調整機能付き
  • ・点火、消火タイマー付き
  • ・過熱防止機能付き

 

④厨房機器の変遷

 

昭和20年代~30年代前半の機器には安全装置が未装着でしたが、昭和30年代後半から、徐々に安全装置が装着されてきました。

現在の厨房機器は安全化が進むと同時に、温度調節など調理機能を付加した総合的な厨房機器となりました。

 

[厨房機器の安全装置]

 

  • ・自動点火安全装置(初期点火確認、立ち消え防止)
  • ・過熱防止機能付き(温度ヒユーズ)

 

 

 

(3)接続具対策

 

都市ガス事業の創業以来、ガス栓からガス機器にまでの接続具は、ながらく天然ゴムからできたゴム管が使用されてきました。

 

この部分は、ガスの利用者が管理されている部分であり、ガス栓とゴム管、ゴム管と器具栓の接続部をしっかりつなぐことがポイントです。機器を動かしたりした際のゴム管外れ、あるいは老朽化した時のひび割れ現象があるとガス漏れの原因になります。

 

また、過去には自殺志願者がゴム管をハサミで切って、ガス中毒や爆発火災などを起こす現象がありました。

 

そこで、ゴム管の素材を研究して、老朽化防止とか簡単に折れないようにゴム管の中に鋼線を入れるなどして強化しました。また、ゴム管の長さを決めたうえでプラグを付け、自動的にカチッとはまるような迅速接手方式の採用など安全型接続具を開発しました。これは、一般的なホームセンターなどでの市販ルートでも販売されるようになりました。

 

昭和54(1979)年代にはガスコンロ。開放型ストーブなど小型機器用の小口径のガスコードや風呂釜、湯沸器など大型機器向けの強化ガスホースなどが販売されており、接続具関連のガス漏れ事故は大幅に減ってきたのです。

(4)ガス機器の品質向上策の実行

事故が多発した時代は、ガス機器の品質もよくありませんでした。このため、ガス機器販売者である東京ガスは、昭和50(1975)年に全国で初めて、ガス機器耐久試験センターを作りました。はじめは、東京ガスの社販ガス機器の品質向上を目的として、最低10年相当の作動を想定したロボットによる自動の繰り返しテストをしたのです。

 

ガス機器の品質の良否は耐久試験センターですぐに判定され、その結果は該当の機器メーカーに開示されました。対象となるガス機器メーカーは、指摘された不具合箇所を改良するなどして、市場に販売されているガス機器の品質は良くなる方向に向かいました。

 

従来のガス機器は品質が安定せず、不備もあったため、リコールの対象となるものがありましたが、試験センターのデータはガス機器メーカーにとっては品質向上につながる貴重な情報となり、有効に利用されたのです。

 

当初、耐久試験センターの対象機器は、東京ガス販売のガス機器が対象でしたが、その後、全国で販売されている市販のガス機器全般についても対象としました。これにより全国的にガス機器の品質が一段と向上しました。

 

その後、各機器メーカーが自主的に耐久試験所を作るようになり、品質向上につながってきたため都市ガス事業者による製品テストの役割はおわっています。

 

 

(5)建設業界などへのガス機器設置に関する周知活動の展開

 

前述のように、ガス機器は建築物の設計段階からガス設備とともに一緒に考えられるべきものであるため、大手都市ガス事業者が日本ガス協会を通じて建設業界の関係者と密接な関係を持ちながら、各種研究会でなどで技術資料の公開や討議など周知活動を展開してきました。

 

具体的には、BL部品(優良住宅部品)への参入、諸雑誌などへの投稿や紹介記事、資料の提供など全面的な協力関係を築きました。その結果、厨房機器、風呂釜など大型の機器設置、温水による床暖房などのガス設備・ガス機器が標準装備として建物にビルトインされるようになったのです。

その結果として、21世紀の時代には、新設建物のガス設備やガス機器の安全化が進化したといえる段階になったのです。

 

 

 

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