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【第5章】ガス機器事故再発防止対策 (第1回)(昭和50(1975)年~)

 

あらまし

 

 昭和50(1975)年頃、都市ガス事業を所管する通産省・資源エネルギー庁は、多発するガス機器事故を重大視し、再発防止のために対策委員会の設置、諸外国への調査団派遣、法令の改訂等を実施しました。

 

都市ガス事業者の全国団体である日本ガス協会も、昭和54(1979)年に、都市ガス事業者の経営陣による「保安対策委員会」を設置し、活動しました。

当時は通産省資源エネルギー庁・消防庁・建設省・警察庁・日本ガス機器検査協会などの諸官庁と日本ガス石油機器工業会、ガス警報器工業会などの工業会、建設業界、設備業界などの業界団体、消費者団体などの関係団体が協力して安全対策を練りました。

 

ガス機器事故を撲滅するために、ガス機器に抜本的な「ハード対策」と「ソフト対策」がとられたのです。

 

 

1.都市ガス事業者の基本的な対応

 

 戦後の日本は社会全体が貧しく、商品も安くなければ買ってもらえない時代でしたが、ガス機器も同じでした。

さらにガス機器がさほど広く使われていない時代には、使用者が使い方で安全に気を付けるから、安全装置はいらないし、商品価格は安くした方がいいという考え方が通用していました。

 

 安全のための装置にコストはかけないという背景から、ガス機器は安く提供し、使用者は注意して安全に使ってもらうという考え方が、製造者・販売者と使用者との間の暗黙の了解が社会システムとして受け入れられたのです。

 

 一方、ガス機器がなければ、都市ガスの販売量が増えないので、都市ガス事業者はガス機器メーカーに、安全面を考慮した機器の開発コンセプトを提供し、製造したガス機器の販売面は、都市ガス事業者が積極的に拡販するという経緯がありました。

 

 

安全対策面では、我が国にガス機器が導入されてから、機器の使用に伴う安全については、使い方を理解させるというソフト面での対応になっていて、事故が起きてから対策を行えばいいという「事後対応」の考え方が主流でした。

これは、当時の社会全体に広まっていた考え方であり、他の業界でも同じ思想でした。

 

 

 しかし、都市ガス事業の普及拡大により、事故が多発してくると、都市ガス事業者としても、多様な使用者に対して「安全周知」という「ソフト対策」だけでは限界を感じていました。

たとえ事故の責任が使用者にあっても、人の生命・財産に影響を与えてはいけない、そのために、安全は「ハード対策」指向として、機器に安全装置を内蔵化しなければならない、それを具体的に実施していこうという判断を当時の都市ガス事業者の経営陣がしたのです。

 

 

 昭和55(1980)年、当時の東京ガスの社長であった村上武雄氏(日本ガス協会会長でした)の言葉に以下のようなものがあります。

 

 

①都市ガス設備は近代化しなければならない、
 そのためには「都市ガスというエネルギーは使い方を誤ると危険」という考え方を徹底することである。

 

②天然ガス転換を通じて、全国的にガスグループを統一化することが必要である。

 

 

これは将来の都市ガス事業の近代化に必要な思想でもありました。

 

この考え方は、仮に使用者側のミスがあったとしても、大きな事故にしないという「フェイルセーフ」思想を取り入れた経営政策でした。

法の基準を超えた自主的な「予防保全型」の思想を、大手都市ガス事業者の経営者が率先してとりいれたのです。

 

 都市ガス業界の団体である日本ガス協会の基本方針として、各都市ガス事業者の経営方針を平成12(2000)年に「都市ガス死亡事故ゼロ」を目標とすることとし、具体的な抜本策をたてて、それに沿った運動を展開しました。

 

その後、状況に応じて平成22(2010)年、平成27(2015)年に目標を再検討し、当初の理想となる目標は段階的に達成されたのです。

 

 このため、都市ガス業界が主となって、ガス機器メーカーとともに、ガス機器の安全化の技術開発を進めました。

その結果、安全性+操作性やデザインなどで付加価値を高めた商品開発が進み、今日の「死亡事故ゼロに近いレベル」につながったのです。

 

 しかし、この時点では、既存のガス機器には旧型機器が存在していました。

また、業務用ガス機器も、多様な使われ方が主流だったため、安全重視の考え方を継続して実施することが必要でした。

 

 

 昭和50(1975)年~60(1985)年にかけての当面の対策としては、事故の予備軍である既設のガス機器の不良設備の改善を使用者に要請したり、老朽化した不良機器取替を依頼するなど、徹底的な「ソフト対策」を実施しました。

また、将来の抜本的な安全のために「ハード対策」としての技術開発を大手ガス事業者とガス機器メーカーとが急速に進めることとし、その後、安全機能の付いた操作性の良いガス機器を商品化していきました。

 

将来に向けて必要なことは徹底的な機器の「ハード対策」です。そのためには、今までのガス機器や接続具、ガス栓などを徹底的に調査・分析する必要があります。

 

都市ガス事業者が、主体となって機器メーカーや関係者とともに、調査・分析をし、安全のための技術開発を促進し、安全装置付きガス機器の普及活動を展開してきたのです。

この時点での基本的な考え方は、「たとえ使用者のミスがあっても大きな事故にはしない」という「フェイルセーフ思想」でした。

 

この商品化の考え方が「マイコンメーター」(後述)の開発につながってゆきました。

 

 「マイコンメーター」は、ガス事故の防止だけでなく、大地震が起きた時の火災防止にも効果を発揮し、最近の大地震災害でもガス事故防止に大きく貢献しています。

 

さらに、ガス機器や周辺の接続器具なども、これらの抜本的な技術開発により保安対策としての安全性が向上し、今日の「都市ガス事故ゼロベース」時代になってきたのです。

 

 

 

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