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【第3章】ガス機器の黎明期(第6回)

1.ガス灯に始まったガス機器の歴史

4. 日本のガス風呂釜の歴史

日本独特の発展をしたガス風呂釜の歴史について、関東地方の例を見ながら、ここでは説明をしていきます。

 

日本で最初の都市ガスによるガス風呂釜は、明治40(1907)年頃、東京ガスが販売したものです。
その頃の風呂釜は、それまでの風呂釜の主な燃料であった薪や石炭の焚口に、ガスバーナーを入れたものでした。

 

 

大正3(1914)年に出された東京ガスの風呂釜のPR資料を見ると当時の状況がわかります。(図-1 東京ガスのガス風呂の広告)

 

大正7(1918)年には、日本初の民間ガス風呂販売会社「日本瓦斯風呂商会」が設立されました。

大正11(1922)年には、今までのガス風呂釜より沸き上がり時間の短い「細山式ガス風呂」が開発され、東京ガスもこれを採用し、東京ガスと「日本瓦斯風呂商会」との間でガス風呂釜の取引が始まりました。

 

 

「細山式ガス風呂」の広告(図-2)には、その特長がいくつか書いてあります。

 

①「経済無比=薪・石炭より燃料費が安く、取り扱いが簡単で煙突も不要」
②「火災防止=従来、火災の多かった、薪・石炭の風呂釜よりガス風呂釜は、より安全で火災を防ぐ」ことができる。
ということでした。

 

 

この広告文には特筆すべきことが2つあります。

 

1つは「ガス風呂釜には、煙突が不要です」とあることです。

その当時の内風呂は、「湯殿」といって、トイレとともに離れに設置されるケースとか、住宅内の浴室であっても、木造家屋の換気の良い場所に設置されるとか、ガス風呂釜の煙突がなくても給排気上の問題が少ない環境だったと思われます。

 

2つ目は「ガス風呂釜は薪・石炭を燃料とする風呂釜より安全で、火災を防ぐことができる」という部分です。
大正13(1923)年9月に発生した関東大震災で東京が焦土と化した原因の1つに、風呂釜の燃料だった薪・石炭による延焼も推定されました。
この点、すぐに消火できるガス風呂釜が改めて見直され、その後のガス風呂釜の普及につながったのです。

 

 

そのため、関東大震災以後は東京ガスもガス風呂釜の開発・販売に一層力を入れ始めました。
東京ガス器具研究所の金指甚平氏らを中心に、独自のガス風呂釜の開発を進め、昭和6(1931)年には、「早沸釜」を完成させて売り出しました。
この製品はこれまでのガス風呂釜の問題点をすべて解決したもので第二次世界大戦後まで長く使われることになりました。

 

このように、明治時代の後半から大正時代、そして昭和の初めにかけて、ガス風呂釜の良さが認められ、薪・石炭を燃料とする今までの風呂釜がガス風呂釜に入れ替わっていきました。

 

 

しかし、保安(安全)上の観点からは、当時の風呂釜にはいくつかの問題点がありました。

 

その1つは、薪・石炭と違ってガスは燃えた時に煙が出ないので、ガス風呂釜を取扱う業者側の認識として、煙突が要らないという誤った考え方があったのです。
当時の家屋は先に述べたように換気の良い木造住宅が主ですから、給排気不備によるCO中毒もあまり起きてはいなかったのです。
前述の「細山式ガス風呂」の広告には、「ガス風呂釜に、煙突はいりません」と明記されていました。

 

後年、昭和30年代、住宅公団の気密性の高い鉄筋コンクリート造りのアパートや民間のアパートが増加して排気ガス中毒が多発する現象が起きましたが、都市ガス業界でも「煙突はいらない」という誤解が一部残っていたのです。

 

もう1つは、ガス風呂の製造・流通・販売システムの問題です。
薪・石炭風呂の場合は、風呂桶製造業者が風呂桶・風呂釜の一体品を作り、それを浴室内に設置して、その後、煙突業者が煙突を取り付けていました。
一方、ガス風呂の場合は、ガス風呂販売会社が、風呂桶にガス風呂釜を取り付けたものをガス風呂として、浴室内に取り付けていました。
本来、風呂桶、風呂釜、バーナーの燃焼部を含めた本体部分と排気設備は一体で設置すべき商品なのですが、実態としては別々に設置されていました。
ガス風呂販売会社はガス風呂には煙突はいらないという認識だったので、ガス風呂の設置には煙突業者は必ずしも係わっていませんでした。

 

 

このように東京ガスは自社でガス風呂釜の製造・販売に関与せず、「東京ガス指定店制度」を設けて、「日本瓦斯風呂商会」の傘下の製造者・販売店に風呂釜の設置など依頼し、東京ガスが製造・販売・流通などに直接関与することはしていませんでした。
しかし、その流れの中には、浴室内設置のガス風呂釜には保安上重要な煙突設置業者の位置づけがなく、建前として、販売店業者、消費者にお任せの状態だったのです。

 

この結果として、風呂釜を設置する際の給排気設備完備は少なく、煙突(排気筒)なし設備やあっても不備な設備が存在し、ガス風呂釜によるCO中毒の予備軍になったのです。

 

 

 

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