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【第2章】都市ガス事業と保安の歴史(第2回)

2.日本の都市ガス事業の創業

①都市ガス事業の設立経緯

日本の都市ガス事業は、横浜居留外国人が都市ガス事業の計画を、神奈川県知事陸奥宗光に申請したところから始まりました。

 

外国人が都市ガス事業を独占することに危機感をもった横浜の実業家・高島嘉右衛門は、日本社中という組織を作り、上海フランス租界のガス商会会頭で設計技術者のフランス人、アンリ・プレグランを日本に招きました。
当時、大規模な鉄道用の埋め立て工事もしていた高島嘉右衛門は、資金面で大変な苦労があったのですが、神奈川県と国の支援を得て、明治4(1871)年、横浜瓦斯灯会社を創業しました。
当時、日本には都市ガス事業に必要な部材がなかったので、プレグランはイギリスやフランスで資材を買い付けました。

 

 そして、翌年の明治5(1872)年10月31日、横浜馬車道に日本初のガス灯が数十本点灯したのです。
イギリスにおくれること60年後でしたが、この日は今もガスの記念日となっています。

 

 

高島嘉右衛門は、横浜だけでなく、東京府(現在の東京都)にも出資の話をもちかけていました。
東京府は、寛政3(1791)年から町民たちが積み立ててきた非常災害用の備蓄金である共有金(七部積金)の一部をだして、東京の分も同時に部材を購入するよう所有者に依頼しました。
この資金は東京府のものでなく、江戸時代からの名残で東京会議所のものでした。
しかし、資金が非常備蓄金からでたということで、プレグランへの発注主体が東京府なのか東京会議所なのかがはっきりしないような状態になり、結局購入した機械類は深川に運ばれたままになってしまいました。

 

 

高島嘉右衛門は、これを見て、東京府知事大久保一翁に明治6(1873)年ガス灯建設を申請し、東京府はこれを受けて、東京会議所がガス灯建設するように取り計らいました。
東京会議所はこの命を受けて明治7(1874)年、金杉橋から芝を通り、当時レンガ街化計画があった銀座通り沿いに京橋まで、85本のガス灯を立て、同12月18日に東京で最初のガス灯が点火されたのです。

 

その2年後の明治9(1876)年、都市ガスを主管していた東京会議所が廃止されたため、都市ガス事業は東京府に引き渡され、東京府が管理することになり、東京府ガス局という公営の事業になったのです。

 

 

しかし、官営の都市ガス事業は、民間なみの事業運営がうまくいかず、渋沢栄一などが中心となって努力した結果、ようやく民営化が可能になりました。
明治18(1885)年東京府ガス局は民間会社に払い下げられて「東京瓦斯会社」になったのです。

 

これが現在の東京ガス(株)の前身、今から約137年前のことです。
渋沢栄一は明治9(1876)年東京会議所から引き継いだ東京府ガス局の局長になり、その後ガス局が民間会社になった時、初代の社長になったのです。
 渋沢栄一は、幕末から明治維新にかけて、幕臣として活躍し、その間の欧州での経験から、官僚となり、さらに実業家へと変身し第一国立銀行や東京証券取引所の金融関係、多種多様な民間企業、学校、福祉施設など約500社以上の設立や経営に関与され「日本資本主義の父」ともいわれています。

 

 

➁東京ガス初代社長渋沢栄一の思想

 渋沢栄一は、大正5(1916)年に「論語とソロバン」を編集しました。
その中心にあったのは、「道徳経済合一説」という理念です。
幼少期に学んだ「論語」をもとに、倫理と利益の両立を掲げました。経済を発展させ利益を得ても、独占するのではなく、富は全体で共有し、社会に還元することを説きました。

 

 「論語とソロバン」にはその理念が次のように述べられています。

 

「富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。道徳と離れた欺瞞、不道徳、権謀術数的な商才は、真の商才ではない」

 

 これは渋沢栄一がとなえた私欲や私益を捨て、「公利公益」のために尽力せよという精神、ひいては「公益事業の精神」に繋がっています。

 

その後、ヨーロッパやアメリカで都市ガスの研究はさらに進み、1812年、イギリスで世界最初の都市ガス会社が設立され、都市ガスはフランス、アメリカ、オーストラリアなどに広がっていきました。
都市ガスは当初、照明用のガス灯として使われましたが、その後、炊事用や暖房用の熱源にもなっていきました。
日本では明治5(1872)年に横浜に初めての都市ガス会社ができて、ガス灯がともりました。

 

日本の都市ガス事業の創業経緯

創業経緯
明治 5(1872)年 高島嘉右衛門 横浜瓦斯灯会社設立
明治 7(1874)年 神戸に兵庫瓦斯商会が設立
東京会議所が京橋―金杉橋間に85基のガス灯点火
明治18(1885)年 渋沢栄一 東京瓦斯会社初代社長就任
明治30(1897)年 大阪瓦斯会社設立
明治31(1898)年 神戸瓦斯会社設立
明治39(1906)年 名古屋瓦斯会社設立
大正 2(1913)年 西部瓦斯会社設立
大正 4(1915)年 地方の各地に都市ガス事業者設立(91事業者)

 

 

 

 

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