都市ガスはどのようにして安全になったのか?
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この広告文には特筆すべきことが2つあります。 1つは「ガス風呂釜には、煙突が不要です」とあることです。 その当時の内風呂は、「湯殿」といって、トイレとともに離れに設置され るケースとか、住宅内の浴室であっても、木造家屋の換気の良い場所に設 置されるとか、ガス風呂釜の煙突がなくても給排気上の問題が少ない環 境だったと思われます。 2つ目は「ガス風呂釜は薪・石炭を燃料とする風呂釜より安全で、火災を 防ぐことができる」という部分です。 大正13(1923)年9月に発生した関東大震災で東京が焦土と化した 原因の1つに、風呂釜の燃料だった薪・石炭による延焼も推定されました。 この点、すぐに消火できるガス風呂釜が改めて見直され、その後のガス風 呂釜の普及につながったのです。 そのため、関東大震災以後は東京ガスもガス風呂釜の開発・販売に一層力 を入れ始めました。 東京ガス器具研究所の金指甚平氏らを中心に、独自のガス風呂釜の開発 を進め、昭和6(1931)年には、「早沸釜」を完成させて売り出しま した。 この製品はこれまでのガス風呂釜の問題点をすべて解決したもので第二 次世界大戦後まで長く使われることになりました。 このように、明治時代の後半か ら大正時代、そして昭和の初め にかけて、ガス風呂釜の良さが 認められ、薪・石炭を燃料とす る今までの風呂釜がガス風呂釜 に入れ替わっていきました。 しかし、保安(安全)上の観点 からは、当時の風呂釜にはいく つかの問題点がありました。 その1つは、薪・石炭と違って ガスは燃えた時に煙が出ないの で、ガス風呂釜を取扱う業者側の認識として、煙突が要らないという誤っ た考え方があったのです。 当時の家屋は先に述べたように換気の良い木造住宅が主ですから、給排 気不備によるCO中毒もあまり起きてはいなかったのです。 前述の「細山式ガス風呂」の広告には、「ガス風呂釜に、煙突はいりませ ん」と明記されていました。

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