したがって、需要家に対し、公平な価格で安定供給と保安(安全)を前 提とした事業運営の役割が求められています。 明治、大正、昭和の実業家であり、東京ガス(株)初代社長となった渋 沢栄一が語った「公利・公益」の精神がまさしく都市ガス事業の思想を 伝えていると思われます。 都市ガス事業の歴史を振り返ると、明治・大正の黎明期から戦後の昭和 20年代まで、ガス機器はお客様の所有物の範疇であるという認識のも と、保安(安全)対策が遅れがちでした。 本書で取り上げた昭和30~50年代はガス機器関連事故が多発した 時代であり、このため、ガス事業者は徹底的な再発防止策に取り組むこ とになりました。 このたゆまぬ取り組みが今日のガス機器に関する安全化・近代化の道に つながっています。 都市ガスという商品は、一般的な商品とは異なります。 ガス栓を開けば、商品である都市ガスが使用者に届くという便利な形態 でありながら、一歩取り扱い方を誤ると、人命や財産に直接影響を与え かねません。 近年、都市ガス事業は従来からの地域独占事業形態から自由化の時代に 入り、新規の事業者が参入できるようになりました。 しかし、保安(安全)の重要性は変わりません。都市ガスを利用する需 要家に対しては、表面上の価格競争だけではなく、「価格+保安サービス」 を提供することが重要です。 この安全性に関する評価こそが、他の一般商品の評価と異なる点です。 一般的な評価として、「なんとなくガスは心配」という利用者の潜在的な 意識は、安全化がほぼ成し遂げられた現代も変わりません。 生活スタイルが多様化している現代では、ガスの利用の仕方も個々で異 なり、様々なガス機器が選ばれています。このような状況下、都市ガス 事業者は保安(安全)に対しては、建前でなく本音で、それぞれの現状 に対応することが求められています。 我が国の社会的な慣行から、都市ガス利用者が人命や財産に影響が及ぼ す重大事故を起こした際には、供給者(都市ガス事業者)の安全周知責 任が問われ、行政指導の対象になることがあります。 それは、都市ガス事業者に対し、「ガスの専門家として使用者の安全を守 る」という道義上の責任を求められていることにつながります。 たとえ使用者が誤って使用しても、大きな事故にならないことを目指す 自主的な保安対策が求められているのです。
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